黒魔術部の彼等 キーン編4


悪魔と話してから、どうしてもお礼がしたいとまたキーンの城へ招かれていた。
お互い想いを伝えた後で気恥ずかしさはあったが、会いたい気持ちが強かった。
「ふふ、ソウマさん、来てくださって嬉しいです」
城へ入るなりキーンが飛んできて、隣で微笑みかけてくれる。
それだけで気持ちが暖かくなるようで、はにかんでいた。

「今夜の食事も腕を振るいますよ。お風呂は入浴剤を入れて、柔らかいベッドで労をねぎらわせてください」
「ありがとう。キーンの手料理おいしいから楽しみだよ」
泊まることになったが、快く了承する。
何も起こらないと思っていたわけじゃない。
自分には度胸がなくて、まだ何もできないだろうと予測がついていた。

用意された夕食は、相変わらず前菜からデザートまで絶品だった。
お風呂はほんのりと紫色に色づき、浴室はわずかに甘い香りに満たされていてリラックスできた。
キーンの部屋へ行くなりキングサイズのベッドに寝転がり、布団に体を沈める。
このまま眠れば完璧に熟睡できると思うけれど、まだ寝るのは惜しかった。
眠らないようにしつつごろごろしていると、扉が開く。
反射的に起き上がり、ベッドの縁に座った。

「楽にしていてくださればいいんですよ。後は寝るだけなんですから」
「ん・・・そっか」
のろのろとベッドに戻り、大人しく寝転がる。
キーンが隣に来ると、少し距離を詰めた。

「キーン・・・僕が悪魔に惑わされそうになったとき、引き留めてくれてありがとう。
キーンが声をかけてくれなかったら、魔界へ墜ちていたかもしれない」
「たとえ相手が悪魔でも、あなたを奪われたくありませんでしたから。もちろん、ディアルさんにもね」
ふいにキーンが身を起こし、上から見下ろされる。
顔の両脇に手が落ちてきて、逃げ場をなくされていた。


「も、もう、寝るんだよな?」
「寝るという言葉には、ただ眠るだけでなく性的な意味もあるのですよ」
どきりとしたとき、キーンの身が下りてくる。
「ソウマさん、私に身を委ねていただけますか」
もはや、断る意思なんて微塵もない。
口を開くとそこから鼓動の音が出てしまいそうで、小さく頷いていた。

キーンの体がさらに近付いてきて、目を閉じる。
すぐに、唇に柔らかい感触が伝わって胸が温かくなった。
それは数秒で離れ、再び重ねられる。
触れ合う瞬間を楽しむように、何度も。
そのたびに胸中の温度が増すようで、一旦吐き出すように吐息を吐く。
それでもまだ重なり、塞がれる。
そして、柔らかな感触は表面に触れるだけでなく、その中へと入ってきていた。

「ん・・・う・・・」
キーンの舌が触れ、鼓動が高鳴る。
表面を愛撫され、いやらしくとも求めたくなる感覚に、ぼんやりと酔っていた。
そこで終わらず、キーンが身を下げ耳元へ吐息をかける。
唇が耳朶に触れると、反射的に体が強張る。
そんな微妙な変化を感じ取ったのか、キーンがそっと頭を撫でた。
手馴れているような愛撫に、わずかに力が抜ける。
そうやって油断したとき、耳に湿った感触が這わされた。

「ひ、う」
耳が弄られ、外側から形がなぞられていく。
ぞわぞわとした寒気を感じ、思わずキーンの肩を掴んでいた。
舌はゆっくりと動き、内側までも侵食していく。

「や、や・・・」
窪まりから卑猥な液体の音が直に届き、肩を掴む手に力がこもる。
淫らな感触に体は正直に反応し、わずかに身をよじった。
ほどなくしてキーンが離れると、吐息をついて溜まった熱を吐き出した。

「頬をこんなに染めて、愛らしいことですね」
キーンの両手が、頬を包み込む。
自然と目が虚ろになり、ぼんやりとキーンを見詰めていた。
キーンが軽く笑み、手をかざす。
すると、どこからか死神の鎌が飛んできてその手におさまった。
銀に光る刃を見た瞬間、ひやりとする。


「動かないでくださいね、これが一番手っ取り早いので」
奥歯を噛んで緊張していると、さっと鎌が一線を切る。
自分の真上を通った直後、寝具だけが切られていた。
耐久性を失った服は、ばらばらと床へ落ちていく。
一気に無防備な状況にされてしまい、息を飲んだ。

「ふふ・・・便利なものですね」
キーンが鎌を手放し、指の腹が胸部から腹部をなぞる。
その動きは、指の一本でも翻弄されてしまいそうに艶めかしい。
何度も何度も、焦らすように肌を愛撫され頬の熱が上がってしまう。
やがて、腹部までで止まっていた手はさらに下方へ触れようとした。
たまらず、キーンの手首を掴んで止める。

「あ、あの」
「後生ですから、今更止めろなんて言わないでくださいね?」
「・・・そうは言わない、けど・・・僕だけこんな格好になって、不公平だ。
・・・どうせなら、キーンも同じ姿になってほしい」
キーンから笑みが消え、沈黙が流れる。

「・・・普通は、そうなのかもしれませんが、そうですね・・・」
迷うように目を伏せ、押し黙る。
しばらく迷っていたようだが、一旦キーンが身を引いて視界から消えた。
どうするつもりなのか、仰向けになったままじっと待つ。


「・・・あなたが、そう望むのなら」
漆黒のローブが、床に落ちる。
体を起こすと、キーンはもう何も身につけていなかった。
その体つきは普通の少年と同じものだったけれど
皮膚の表面には、赤黒く染まった痛々しい痣がいくつもつけられていた。
腹部は赤黒、腕は紫色の内出血のような色、足は焦げたような黒で皮膚の一部が染まっている。

「・・・何か、実験、失敗したのか?」
「いえ・・・もっと、昔のものですよ」
視線は逸らされ、普段着を着たときの自信のない様子と似ている。
瞬間、悪い情景が脳裏に浮かんだ。
「私の父は研究熱心でした。それはそれは、とても・・・」
それ以上、はっきりと言葉が紡がれることはなかった。
いつも、肌がちらりとも見えないローブを着ていたのはこのせいだ。
2回も強要してしまった自分が無神経で嫌になる。

キーンに近づき、手を伸ばす。
腹部の痣を掌で撫でると、体がわずかに震えた。
「ごめん・・・見せたくなかったんだよな、こんな、辛いこと」
「不気味でしょう。悪魔よりも、よっぽど」
人の形をしているのに、普通とはとうてい言えない色。
同じ人から見れば、軽蔑する恰好の要因。
けれど、手は紫の痣を撫でていた。

「正直に言うと、気味悪い。だけど、そんなこと、今更過ぎる」
キーンと視線が合う。
この相手を畏怖するのなら、黒魔術部なんて怪しい部活に行っていない。
面白いと思っていた、この異常な相手を。
悪魔の力を持つ者は、そういう思考になるのだろうか。

「不気味で恐ろしいけれど、その方がキーンらしい。
僕は、そんな雰囲気のキーンが好きだ」
自然な感情が、表に出る。
キーンは呆然としているように黙っていたが、ふいに肩を押された。
再び仰向けになり、キーンを見上げる。

「ああ、ソウマさん・・・あなたが欲しい。
私のことだけを想うように、その身に刻み付けてしまいたい」
熱烈な言葉、らしくないけれど嫌とは思わない。
抵抗しないと示すように力を抜いていると、キーンが下の方へ移動する。
また離れるのかと体を起こそうとしたとき、太腿の辺りに艶めかしい感触が伝った。

反射的に足を退けようとしたが、脛を掴まれて阻まれる。
その感触は下腹部への中心へと近づき、唾液が跡を残す。
まだ静かなものへ這わされた瞬間、高い声が喉元へ上った。

「あっ・・・キーン・・・っ」
弄られているとわかると、かっと気が昂る。
躊躇うことなく動くものは根元から先端をなぞり、全身に熱を巡らせた。
否応なしに、反応してしまう。
キーンにされていると思うだけでも高揚し、下肢のものに影響するのに時間はかからなかった。

「もう、こんなに血が巡って・・・気持ち良いですか?」
「う、ん・・・」
「ふふ・・・もっとよがってください」
高まったものの近くで息をかけられるだけでも熱を感じる。
先端へ舌が触れ、唇がそこを食む。
そして、身は口内へと誘われていた。

「ああ、あ・・・」
温かで柔らかな内部に包まれ、声が出る。
ゆったりとその身を弄られると、とたんに息が熱くなった。
変な声が今更気恥ずかしくて、喉元で抑えようとする。
けれど、キーンに深く咥えられると、吐息と共に小さな喘ぎが漏れた。
全体が卑猥な液にまみれ、悦の感覚にとらわれる。
柔いものは躊躇いなく這わされ、気は落ち着きようがなかった。
どんどん、熱が高まっていく。

「ん、ん・・・っ、あ・・・」
堪えようとしても、吐き出してしまいたい気持ちの方が強くなる。
キーンは全体を味わうように、下へ上へと滑らかに動いていく。
たまに軽く吸い上げられ、身体がびくりと震えた。
もはや、快楽の悦びから逃れられなくなる。
一瞬たりとも離されることはなくて、高揚感は募る。
吐き出したい欲望が下肢へ溜まるのを感じ、思わずキーンの髪を掴んだ。

「も、う、いいよ・・・このまま、だと、キーンが・・・っ・・・」
強めに髪を引くと、キーンの動きが止まる。
渋々というようにゆっくりと身を上げ、先端を軽く舐めて口を離した。
刺激がなくなり、ふっと息をつく。
その瞬間、背中が妙にざわついた。


「あれ・・・な、んか、変・・・」
突然、背中から蜘蛛の足が飛び出す。
離れた相手を再び自分の元へ戻すよう、キーンの身へ絡みついた。
「おや・・・欲望は正直ですねえ」
「え、あ、あ」
口ではもういいと言っているのに、蜘蛛の足はキーンを求めている。
これが自分の本能なのかと思うと、どっと羞恥心が湧き上がった。

「ふふ、嬉しいですよ、私をこんなにも求めてくださるなんて・・・続きをしてもいいですか?」
「あ・・・う・・・うん・・・」
小さく返事をすると、起立したままのものに吐息がかけられる。
体は緊張感を覚えたが、足は歓迎するようにキーンの背に回されていた。
再び、下肢の昂りがキーンの口内へ誘われる。

「あ、あ・・・っ」
焦らすこともせず、全体が深く咥えられる。
遠慮は一切なくなったのか、舌はしきりに身を弄っていく。
「ふ、あぁ・・・」
もう、意識は完全にキーンにとらわれている。
羞恥心よりも本能が勝り、触れられることを悦んでいた。
好意のさなか、キーンの背からも黒い翼竜の翼が生え、ソウマの体を包み込む。
お互いの欲望が表に出たとたん、下肢が強く吸い上げられた。

「あ・・・キーン、ああっ・・・!」
高い声を発し、体が一瞬弓なりに反る。
どくん、と脈動したものから、生暖かい白濁が溢れ出て止まらない。
唾液と混じって、余計に卑猥な感触が強くなる。
欲が解放された余韻で頭が真っ白になり、ぐったりと力を抜いた。

脈動がおさまると、キーンは徐々に身を起こしていく。
一滴も零さぬよう慎重に口を離し、喉を鳴らした。
「ふふ、艶めかしい感触ですね、あなたの・・・」
「言わなくて、いいから・・・!」
やってしまったと両腕で顔を覆うけれど、すぐに外されてしまう。
すぐ上に、いつもと同じくほくそ笑んでいるキーンがいる。
けれど、その眼差しは真っ直ぐに自分に向けられていて
悪魔を呼び出して興奮しているときと似ている、高揚感が含まれているようだった。

「実験とか、悪魔関係以外のことでも、興奮するんだ・・・」
「そりゃあ、しますよ。あなたが無抵抗に身を委ねて、私はそれを自由にできる・・・。
高揚しないはずがありません」
光栄だととらえるべきか、怖いと感じるべきか。
今となっては、前者の気持ちの方が大きかった。
気だけでなく体も反応しているのかと、ちら、と下半身を見ようと視線を下げる。
けれど、キーンはさっと離れてすぐにローブをはおってしまった。

「ひとまず洗面所へ行ってきます。私としては、あなたの精を味わいながら一晩過ごすのもいいのですが」
「・・・喉に悪いと思うし、すぐに、うがいしたほうがいい」
間髪入れず言うと、キーンはくすりと笑った。


ほどなくして、キーンが着替えを持って戻ってくる。
裸のまま眠ることにならずほっとして、いそいそと着替えた。
「部活だけでなく、眠るときも起きるときもあなたと居られるなんて、幸せですねえ」
「・・・うん」
のろけのような恥ずかしいことを言われても、否定しない。
今更羞恥心がよみがえってきたのか、そんな言葉だけで顔に熱が上るようだった。
早々とベッドに寝転がり、そっぽを向く。

「そんな可愛らしい仕草をして・・・」
背後から、キーンの細腕が回される。
行動も口説き文句も遠慮がなくなったようで、鼓動が強まった。
あの体を受け入れたことが、絶対的な信頼につながったのだろう。
「明日・・・部活では、何をするんだ?」
「ふふふ、明日は限界まで育てたマンドレイクが悪魔を気絶させられるか試そうと思っています」
「うわ・・・」
嫌そうな表情が出る。
悪魔だけでなく、マンドレイクの声で自分も気絶する場面が目に浮かんだ。

「倒れたらお運びしますよ。私の家までね」
身体が反転し、キーンに抱き留められる。
相手は魂を刈り取る死神、だけれども、安らいでしまう。
それに、気絶することは嫌だけれど、家に運んでもらえるのは嬉しい。
なんて、そんなことを考えつつ自分からもキーンに腕を回していた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
危ない後輩と案外普通の感じハッピーエンド。
ヤンデレ設定にしようと思いましたが物騒すぎて断念。